ゴールキックを短く繋ぐことは、リスクに見合ったリターンをもたらすか?

データ分析記事紹介

前置きと方法論の説明


バーンリー戦でグラニト・ジャカのビルドアップ時のパスが相手の選手に当たり得点となってしまった場面に関して監督のミケル・アルテタは

我々がまさにそのために練習していたような場面で相手にゴールを与えてしまった。だが、同じようなことは別にロングキックからでも起こりうることだ。バーンリーが得た唯一のチャンスはベルント(・レノ)のロングゴールキックからだったしね。

とコメントした。

『後ろからのショートパスによるビルドアップは本当にリスクを冒す価値があるのか?』というのは非常に興味深い問いだ。

もちろん、確かに上位チームは基本的に皆GKから短くつないでいこうとする。だがそれは彼らの成功の源なのだろうか?それとも単に彼らにはお金があり、ハイクオリティの選手が揃っているからこそできることなのだろうか?

最新かつ最も効果的だとされるポゼッションバリューのモデルであるG+やVAEPは、基本的にいかにして縦に高い位置をとれるか、そして縦に速く運べるかを高く評価する。

これは、ショートパスによるビルドアップとは相いれないものだ。このネガティブを補って余りあるだけのリターンがあるのだろうか?

もちろん、統計モデルが全てを教えてくれるわけではないので、まず正しい問い/測定方法を見つけ出す必要がある。ゴールキックの何秒後までをゴールキックの影響のある範囲としてカウントするか、それとも何アクション先、何ポゼッション先までカウントするか、そしてそれらが得点の確率を上げたり失点の確率を下げるのに影響があるか?などといったことだ。

もちろんこれらを考えるのに必ずしもモデルが必要なわけではない。

アメリカのサッカーアナリストであるジャレッド・ヤングは数学的に計算し、ゴールキックから2ポゼッション(訳注: ここでのポゼッションとはいわゆる一連のポゼッションの流れのこと、マイボールが途切れるまでのことを言う)後の得失点で見ると、MLSでは短くゴールキックを繋ぐチームに分があることを示した。

トム・ウォービル(訳注: Athleticのアナリスト)はOptaのフォーラムで、プレミアリーグで40ヤード以上の距離にゴールキックを蹴った場合、その後の自チームのシュートと相手チームのシュート数はほぼ同数になっていることを発見した。

これは、マイナスにならないだけでもゴールキックからロングキックを蹴ることにとってはそれなりに悪くない話に思える。ただし、これと関係するチーム自体のクオリティや、シュート数だけではなくそのシュートの質も考慮する必要があるし、サンプル数がそこまで多くないため、決定的な結論を下すのは難しい。

この2人の研究を更に前に進めるために、私はK平均法(訳注: 機械学習における用語。知らなくても今回の記事を読むうえで特に支障はないので安心されたし)を用いたAIによるアルゴリズムで、ゴールキックをいくつかのタイプに分類することを試みることにした。

そして、その各ゴールキックのタイプ別にその後2~4ポゼッションのxGを見ることで、リスクとリターンについての評価を行った。

これにより『何百何千というサンプル数で見た時に、結局最も効率的なのはどのようなゴールキックなのか?』『ビッグクラブだけではなく中位下位レベルのクラブもショートゴールキックに挑戦するべきか?』『そして、ショートゴールキックのうちでも最も効果的な形はどのようなものなのか?』という問いに答えが出せるかもしれない。

10パターンのゴールキックとショートパスの優位性

上述のアルゴリズムをプレミアリーグの過去7年分の全てのゴールキック、約4万本にかけてみた。もちろんどの程度細かく分類するのが分析上有意かに正しい答えはないわけだが、何度かいくつかのパターンを試してみた結果、10パターンに分類するのが最適ではないかという結論に達した。

以下の図を見てこれらがどのようなタイプのゴールキックを示しているのか分かり易いと感じるし、ディテールとバランスも悪くなく、かつ一つのパターンあたり何千ものサンプル数を確保することも出来る。

(ゴールキック後4ポゼッション間の各ゴールキックごとの平均得失点期待値を表した図。黄色に近ければ近いほど+、青に近いほど-)

さて、これがその結果なわけだが、短くつなぐゴールキックとロングキックの違いは一目瞭然だ。タイプA、B、Cの三つが最も黄色/緑に近く、これはその後4度のポゼッションでチャンスに繋がる可能性が高いことを示している。

次点、ロングキックの中では悪くない(このタイプのキックは29%しか味方に繋がってないにも関わらず)のが中央に向かって飛ばすボールだ。

xG的に見て効率が悪いのはハーフラインに少し届かない位置に飛ばすようなキックで、これが相手ゴールに繋がってしまう可能性が最も高い。

これらのゴールキックのサンプル数は非常に多いので、平均化されるかと考えていたが、左サイドに飛ばすDと右サイドに飛ばすEの間に違いがある(右利きのGKが多いのと何か関係があるのだろうか?)のは少々驚きだった。

だが、それ以外は基本的に左右は対称だ。

正直に言うと、ゴールキック後の4ポゼッションのxG得失点を計測するのは少々やりすぎかもしれない。恐らくどこかの時点でゴールキックの影響というよりもむしろチームのクオリティや、あるいはスコアの状況の方が強く影響を与えるようになるはずだからだ。

だが、ゴールキックから2-3度お互いボールロストがあった後にチャンスに繋がるというのも十分可能性としては考えられるので、これらを含めてビルドアップの優位性を測定してみたかった。

とはいえ、下の表が示す通り、実際のところこれを4ポゼッションではなくゴールキック後2ポゼッションのxG得失点に条件を代えても結果はそこまで変わらない。

A, B, CのショートパスがxG的には最も良い結果をもたらすのだ。そして、4ポゼッション後以内で見ると、プラスのxGをもたらすのはこの3種類のゴールキックのみで、基本的にその他のミドル/ロングボールは全てマイナスの値をとる。 (訳注: これらのゴールキック後ある程度時間が経つと自チームの得点の可能性より相手チームの得点の可能性の方が高いという事)

タイプパス数頻度パス成功率xGD2xGD4
A35819%99%-0.00070.0025
B17834%96%0.00190.0055
C32748%99%-0.00170.0005
D14964%66%-0.0040-0.0088
E18655%64%-0.0062-0.0125
F474512%42%-0.0050-0.0090
G655416%37%-0.0040-0.0084
H400010%29%-0.0036-0.0055
I708318%36%-0.0041-0.0079
J547714%42%-0.0039-0.0083
(xGD2は2ポゼッション以内の間のxG得失点、という意味)

もちろん、ここでまずあなたが考えるかもしれないのは『優れたチームが短くゴールキックを繋ぐことが多いので、このような結果になったのではないか?』ということだろう。

もちろん、その影響はある程度あるはずだ。私の技術力ではこのデータをこれ以上洗練させた形で表現することはできない。

だが、分析の対象をビッグ6(これらのチームの選手は皆例外的にボールの扱いに長けていることだろう)以外、彼らほど予算がないいわゆる中位下位クラブに絞ってみても、ショートパスによるゴールキックからのビルドアップの方がxG的にはよく、少なくともロングボールと同じだけのxGはもたらせる。

(非ビッグ6クラブのゴールキックのパターン別のxG。全クラブで見た時ほどショートパスの優位性はないが、それでもやはりAとBが最も良い。)

もちろん、恐らく自己選別的な要素もこれには絡んできているだろう。例えばバーンリーは今季のゴールキックのほとんどでロングボールを蹴っており(大ニュースだろ?わかっている)、そのほとんどはあまりうまくいっていないが、バーンリーがA,B,Cの3タイプのショートゴールキックを選択した際の成績はさらにひどい。

したがって、恐らくショーン・ダイクはどちらがチームにとって正しいやり方がわかっているということだ。

(プレミアリーグの各チームがそれぞれショート/ロングキックからどれだけxGを稼いでいるか。ゴールキックでショートパスからつなぐ形を最も有効に使っているのはアーセナルだが、一方で、アーセナルは割合でいうとショートパスよりもロングパスの方が若干多く、それらは非常にリスキーだ)

だが、その他のクラブももう少し野心的になる余地はある。例えばクリスタル・パレスとサウサンプトンのショートゴールキックの成績がいいのは、単に彼らが非常に限定的な状況でそれを用いているからだ。あるいは、彼らは自分たちで思っているよりも後ろからのビルドアップも上手い、という見方も出来る。

リバプールはヨーロッパで一番短くゴールキックを繋ぐことが多いチームだが、彼らのロングボールの酷い成績を見るに、75%/25%という割合を更にショートパスに偏らせても良いかもしれない。

そして、アーセナルはゴールキックからロングパスとショートパスを半々くらい(ロングパスの方が若干多い)で行うが、彼らにとっては、ロングパスの方がリスキーで、冒頭のアルテタのコメントは別にジョークでもなんでもなかったのだ。

【ゴールキックチェーン】最も効率の良いゴールキックからの形は?

では、ゴールキックからショートパスでつなぐのだとしたら、その最も効果的な形はどのようなものなのだろうか?

アナリスト達はかつてこれを"モチーフ"と呼んでいて、Optaは最近このことを"ムーブメントチェーン"と呼び始めているが、最も効果的なゴールキックからの3本のパスの流れを見つけ出すために、K平均法のアルゴリズムに少し手を加え、更に処理を行ってみよう。

上に書いた通り、平均するとゴールキックのうちで最も効果的なのはBのタイプ、真ん中につなぐショートパスだが、恐らくこのタイプのパスが出せる状況にある場合は、そもそも相手からプレスが全くかかっていない、などといったことも影響しているはずだ。

したがって、これを除いたAとC、サイドに出すショートパスの2つを合わせて計測してみることにした。左右を反転させることで右サイドのケースと左サイドのケースで興味深い非対称性が仮に存在していたとすればそれを隠してしまう事にはなるが、集計の性質的にサンプル数を多く確保するのが難しいので、各パターンの数を二倍とするためにこの方法をとった。

まず、AとCに分類された成功したパスの次のパス、第二のパスをまず5つのグループに分けた。これは下の画像で②と表示されている。

もちろん実際にはゴールキックを受ける選手のポジションはデータに現れていないわけだが、ゴールキックの位置的に、それぞれを『中盤』『スイッチ(サイドチェンジ)』『サイドバック』『フォワード』『GK』と分類するのはあながち的外れではないだろう。

そして、そこからさらに、第3のパスを3パターンに分けて測定を行ったが、これに関してはパスが成功したかどうかによるフィルタリングは行わなかった。単に、第3のパスが放たれた後のxG得失点がどうなったかを計測しただけだ。

まとめると、まず成功した最初のショートパス(AあるいはC)から始め、その後の成功した第二のパスを5パターンに分け、そしてこの場所から3種類の第3のパスを集計した、ということだ。したがって、全部で15パターンのゴールキックがあることになる。

これらのパスの2ポゼッション間のxG得失点を見てみると、各パターンごとにかなりの差があることがわかる。

(これらの15パターンのうち、最も効果的なのは『サイドチェンジ』のパターンだ)

これらに関してすべてを詳細に分析することも出来る(『なぜ違う選手を経由するよりもGK-CB-GK-一度目と同じCBというパターンの方がプレスを回避する上で優れているのか?』や『なぜ第二のパスをサイドバックに出すのは効率が悪いのか?』など)が、今の時点では、どうやら最も効果的に見える一つのパターンにフォーカスしたい。

明らかに黄色の色が鮮やかな中央上の『サイドチェンジ』のパターンだ。

何故この形が最も効果的なのだろうか?

①から②へのパス(図上では点線で表示されている)、サイドチェンジには様々な形がある。長い距離の勇敢なものもあるが、そうでないものもある。

私が特に気に入っているのは、トッテナム対クリスタル・パレスの16分でのものだ。なぜならそれは特に何でもない一見退屈に見えるパスだからだ。(訳注: 元記事内に動画があるので見たい方はそちらを参照)

このシーンでトッテナムは何か華やかなことを行ったわけではない。ボックス左でゴールキックを受けると、サイドの前に飛ばすのではなく、逆に内側に向かってエリック・ダイアーがより得点の可能性が高いビルドアップの形を始める。

そして、その影響は即座に現れる。

クリスタルパレスのスタンダードな4-4-2はショートゴールキックに対応されるために伝統的なやり方でボールに近づく。

右FWのザハはボール保持者に対応し、左FWのベンテケはホイビュアへのパスを防ぐために少し後ろに落ちる。これによりアルデルヴァイレルトがフリーマンとなり、15ヤードのオープンなスペースへのパスが可能になるわけだ。

ベンテケはもう一人のボランチであるシソコにも対応しなくてはならないので即座にアルデルヴァイレルトに寄せることはできず、それを見たシソコは自身がサイドバックの位置に落ちると、実際のサイドバックであるオーリエが前に駆け上がる。

これによりパレスは守備の配置を変更しなくてはならず、かつ同時にベンテケはシソコの位置を見ながらアルデルヴァイレルトに寄せようとするがもう遅く、十分に時間が与えられたアルデルヴァイレルトはパレスの中盤を突破したオーリエへの縦パスを入れた。

これは別に何も特別なプレイではない。4-2-3-1のチームがショートパスでゴールキックを繋いだ場合の4-4-2のチームの対応としては非常に一般的なものだ。

だが、この形を作られるとほぼ論理的に必然と言ってもいいくらいの流れで上の例のような形へと進行する。私が思うに、これが『スイッチ/サイドチェンジ』のタイプのゴールキックが明らかに他と比べて効果的である理由だ。

このケースでは、トッテナムは上手くチームを押し上げることに成功したからでもなければ、高い位置でボールを奪いカウンターを行ったからでもなく、単に良いビルドアップで相手をコントロール下に置きながら前に誘い出し、最適なタイミングで攻撃のギアを入れたことでシュートまでもっていくことに成功したわけだ。

このチームがトッテナムでさえなければ、ミケル・アルテタもこの一連の動きを見て誇りに思ったことだろう。

Original Article(英語版・当該サイトの許可を得て翻訳しています。
登録さえすれば無料で読める記事なので、興味を持たれた方が居れば、ぜひ原文を読んでみてください。):

Posted by 山中拓磨