大島、田中碧、守田のパスの特徴の違いとは?【パス分析総括|川崎フロンターレ 2019シーズン】
今シーズン途中に「大島の凄さを言語化してみたい!」という想いをきっかけに始めたパス分析シリーズ。
同じく川崎フロンターレのボランチである田中碧と守田のデータも含め、集計してきたデータを改めて振り返ることで、大島および田中碧と守田の特徴をあぶり出してみたい。
※パス分析の集計データの詳細はこちらの記事で
”メトロノーム”大島のパスを分析してみた【第7節 サガン鳥栖vs川崎フロンターレ】
怪我がありながらも存在感を示した大島。大きく飛躍した田中碧
今シーズンも怪我に悩まされることとなった大島。大島不在のあいだに下田や田中碧が好パフォーマンスを発揮したものの、大島がシーズン終盤に復帰すると、まだまだ別次元の存在であることを見せつけた。
田中碧はシーズン序盤のチャンスでアピールに成功すると、レギュラーに定着しつつ凄まじい勢いで成長。U-22ではレギュラークラスになり、E-1ではフル代表に招集されるまでに。
守田は昨季のブレイクからのさらなる飛躍が期待されたシーズンであったものの、負傷明けからのスタートで調子が上がらず、自身のプライベートでの不備や田中碧の台頭もあって、ボランチ内での序列が下がる厳しいシーズンとなった。
そんなフロンターレのボランチ3選手のパフォーマンスをパス分析のデータを使って比較していきたい。
【対象】大島:5試合、田中碧:2試合、守田:2試合
※すべてボランチの一角として出場した試合のデータ
分析対象データ
大島のプレー(パス)がなぜ効果的なのかを考えたとき、パス分析を始めた当初に立てた仮説は以下の2つである。
- 大島は(利き足ではない)左足でのパスを効果的に使っている
- 大島はダイレクトパスを効果的に使っている
さらに、田中碧のパス分析をしていくうちに抱いた印象は、
- 田中碧は(利き足である)右足を使う割合が多い
ということである。
それらの3つの仮説がデータとしてどれほど裏付けられるのかという視点でまずは振り返ってみたい。
仮説の検証①【大島の左足、田中碧の右足の割合】
各選手の利き足でのパスの割合を見ていきたい。
対象のデータが少ないものの、田中碧の利き足でのパスの割合が大島や守田に比べて多いことがはっきりとわかるだろう。
田中碧が利き足である右足を使う割合が多いという仮説は間違っていないように思える。
また、大島は田中碧よりも明らかに利き足でのパスの割合が少ないものの、守田と比べるとそれほど差があるとは言えず、大島だけが利き足ではない左足を多く使っているとは言い切れないデータであると言える。
では、大島の左足でのパスが特別多いわけではないとして、左足でのパスをどれだけ効果的に使っているのかという点で、「左足でのパスの意図の割合」をチェックしてみたい。
これを見る限り、チャンスを作ったり攻撃のスイッチを入れるパスとなる「展開・縦パス」「裏へのパス」を出すときに大島が左足を多く使っているわけではないと言える。むしろ、田中碧や守田のほうが多くなっている。
データが少ないかつ、選手によって対象試合数が違うという条件の中での比較であるため、より適切にデータを揃えた場合には異なる結果となる可能性があるものの、大島の左足でのパスに特徴的な部分を見つけることはできなかった。
仮説の検証②【大島のダイレクトパスの有効性】
次に、「大島がダイレクトパスを効果的に使っているのではないか」という点について見ていきたい。
まずは、そもそもダイレクトパスをどのくらい使っているのか(トラップしてパスを出しているか、ダイレクトパスを出しているか)をチェックしてみる。
横軸は「その試合でのその選手の総パス本数」とし、縦軸は「ダイレクトパスの割合」とする。
グラフの傾向として、パス本数が多くなるほど後方でのつなぎのパスが多かったと考えられ、特にフロンターレの場合は短い距離でのパス交換を好むため、ダイレクトパスの割合は右肩上がりになると考えられる。
少し意外なことに、大島はやや少なく、田中碧がやや多い結果に。
試合を見ている中では、田中碧よりも大島のほうがダイレクトパスをより使いこなしている印象が残っている。
おそらく、大島は縦パスや裏へのパスでダイレクトパスを使っていることが多い印象であるが、田中碧や守田の場合は後方でのビルドアップ時に味方と近い距離でダイレクトパスを交換して相手を揺さぶっていることが多く、本数で見てしまうと割合が多くなっているのではないかと考えられる。
そこで、ダイレクトパスをどんなシーン・どんな狙いのパスとして使っているのかという点で見ていきたい。
大島が出したダイレクトパスのうち、裏のスペースへのパスが10.1%となり、3選手の中でもっとも高い割合に。
裏のスペースへのパスは1発でチャンスになりやすいため、ダイレクトで裏のスペースへパスを出すシーンは特に印象に残りやすく、それによって大島のダイレクトパスが効果的であるというイメージを持ったと考えられる。
プレーとしても、ダイレクトで出すことでDFは反応が遅れやすく、FWがDFにマークされている状況でもFWと大島のタイミングが合ってしまえば通りやすいため、非常に効果的なパスであると言えるだろう。
「大島がダイレクトパスを効果的に使っている」という仮説は間違っていなかったと捉えてもよいのではないだろうか。
3選手の特徴の違いとは?
次に、各データを振り返ることで3選手の特徴に違いがあるのかをチェックしていきたい。
パスはどのように使い分けてる?
パスがグラウンダーのパスなのか浮き球のパスなのかを集計しており、ここでは浮き球のパスに注目してみたい。
横軸は「その試合でのその選手の総パス本数」とし、縦軸は「浮き球パスの割合」とする。
グラフの傾向として、パス本数が多くなるほど後方でのつなぎのパスが多かったと考えられ、浮き玉パスの割合は右肩下がりになると考えられる。
田中碧と守田に大きな差は無いものの、大島は田中碧や守田より10%前後多いことがわかる。
第12節名古屋戦の大島にいたっては浮き球パスの割合が23.4%であり、これは飛び抜けた数字と言えるだろう。インテンシティの高い試合となった中で、地上ではなく空中をうまく使ってパスを通そうとする意図があったのではないだろうか。
チーム全体に対する関与の多さは?
試合の中でどれだけボールに関与しており、チーム全体に影響を与えているかという点について見ていきたい。
横軸は「その試合でのチームの合計パス本数に対するその選手のパス本数の割合」で関与の多さを示すものとし、縦軸は「その試合でのチームの合計パス本数」とする。
右に行くほどより多くボールに関与していることとなり、その選手を経由しての攻撃が多かったということになる。
全体的には、大島が若干関与が多い傾向にあることがわかる。
ただし目立っているのが、第33節マリノス戦の大島の割合の少なさ。多くの試合で12~16%であるのに対し、マリノス戦ではわずか8.8%にとどまった。田中碧も同様にこの試合の割合が少ない。
完敗したマリノス戦でダブルボランチがともに苦しみ、リズムを作るプレーをできなかったことが顕著に表れていると言えるだろう。
どれだけ効果的なパスを出している?
3選手がどれだけ効果的なパスを出しているかを見ていきたい。
パスの意図
パスの意図として、「つなぎ」「展開・縦パス」「裏へのパス」の3つに分けて集計している。
まずは「展開・縦パス」について。横軸は「その試合でのその選手の総パス本数」とし、縦軸は「展開・縦パスの割合」とする。
傾向として、パス本数が多くなるほど後方でのつなぎのパスが多かったと考えられ、展開・縦パスの割合は右肩下がりになると考えられる。
全体的に想定した傾向通りであり、突出して多い割合のデータがあるかどうかはなかなか判断しにくいと言えるかもしれない。
第33節マリノス戦の大島はパス本数41本の中で展開・縦パスの割合が36.6%という数字であり、ボールへの関与が少ない中でもより効果的となるパスを狙い続けていたと考えられるだろう。
次に「裏へのパス」について。横軸は「その試合でのその選手の総パス本数」とし、縦軸は「裏へのパスの割合」とする。
傾向としてこれも同じく、パス本数が多くなるほど後方でのつなぎのパスが多かったと考えられ、裏へのパスの割合は右肩下がりになると考えられる。
大島がパス本数に関わらずどの試合でも裏へのパスを10%前後出しているのがとても特徴的である。
役割の違いによる立ち位置の差もあるかもしれないが、裏のスペースをピンポイントで狙うための視野・認知能力と技術の高さは大島の秀でている点であると言えるだろう。ゴールやチャンスに結びつく決定的な仕事をどれだけできるかという部分は、田中碧や守田にはまだまだ不足している点かもしれない。
レイヤーをまたぐパス
次に、レイヤーの観点からチェックしていきたい。
レイヤーとは、相手の守備ブロックの3本のライン(FW、MF、DF)がある中で、どのエリアでプレーしたかを表すものである。
より相手ゴールに近いレイヤー(第3,4レイヤー)でプレーしたほうが効果的であり、レイヤーをまたぐ(守備ブロックを超える)ようなパスは効果的となる。
そこで、レイヤーをまたぐパスがどれくらいあったかを見ていきたい。
横軸は「その試合でのその選手の総パス本数」とし、縦軸は「レイヤーをまたぐパスの割合」とする。
田中碧の割合が多く、守田の割合が少なめと言えるだろうか。
田中碧は後方でのビルドアップ時にCB間に下りることが多く、そこから相手FWを越える縦パスを入れる機会が多いことから、割合として多くなりやすいのかもしれない。もちろん、相手FW-MF間からMFのラインを越える縦パスもうまい印象があり、それもこのデータに貢献しているだろう。
大島もそれなりに高い割合をどの試合でも出しているが、特にシーズン終盤はより前目のポジショニングを取り、相手MF-DF間にいることが多かったため、レイヤーをまたぐパスを出す難易度が高かったとも言える。
レイヤーごとのパス本数の傾向
さらに、レイヤーをまたぐパスのみでなく、全体的なレイヤーごとのパスの本数の傾向を見ていきたい。
以下は、各選手の試合ごとのレイヤーごとのパス本数を平均したものである。レイヤーのデータは途中から集計したため、大島の対象は4試合のみ。
(カッコ内の数字は失敗したパス本数)
3選手とも、全体の大まかな割合のバランスは似ているように見える。これはフロンターレのやり方やボランチの役割が表れていると考えられるだろうか。
もう少し具体的に見てみると、特徴的なポイントが2つある。
一つ目は、ビルドアップ時の後方での関与の多さ。特に田中碧と守田は後方のレイヤーでのパスの割合が多く、大島は少し少なくなっている。これは、田中碧や守田がCB間に下りて数的優位を作る役割を担うことが多いのに対して、大島はより前目で受けるポジショニングを取ることが多いことがデータとして表れた結果と言える。
そして二つ目は、スイッチを入れるパス。相手の守備ブロックのMFのラインを越えるパスはゴールに近づくための第一歩とも言えるが、どの選手も1試合で10本強、このパスを出していることがわかる。サイドから越えた場合も含まれているため、一概に中盤の中央の隙間を縫って通した縦パスというわけではないものの、おそらく他のチームのボランチに比べて多い傾向にあるのではないだろうか(2列目の選手が縦パスを引き出す動きをどれだけできているかにも影響される)。
パスを出した位置・出した先
これまでのデータで守田のパフォーマンスがあまり良くない傾向に見えたかもしれないが、守田のパスを分析した対象の試合内容が特徴的であったことが影響しているかもしれない。
ピッチをエリアで5×6の30分割したときの「パスを出した位置」のデータを見ていきたい。
これを見ると、守田は敵陣内でかなり多くのパスを出していることがわかり、さきほどのレイヤーのデータと矛盾しているように見える。
それは、守田の対象試合のうち、第10節仙台戦はフロンターレがボール支配率66%を記録し、守田は72分間の出場で101本のパスを出しており、フロンターレが完全に押し込む試合内容であったからである。
敵陣内に完全に押し込む時間帯が多くなった場合、相手FW-MF間にいてもそこがすでにファイナルサードであったり、さらにスペースが少なくなるためレイヤーをまたぐパスや裏へのパスは出しにくい状況であったと考えられる。
さらに「パスを出した先」を見ても、同じような理由から、守田のパスのうちファイナルサードへのパスの割合が非常に多いのがわかるだろう。
これらのことから、守田のパス分析のデータは、他の選手のデータと比較するにはあまり適切でなかったと言えるかもしれない。
ただし、守田は今シーズン、時期によって好不調の差が大きかったと言え、多くの試合のデータを取っていたとしても、全体的にはあまり良くないデータになっていたのではないかと思う。
パス分析の振り返り・総括
対象の試合数が少なかったため、このデータから選手の特徴を言い切ることは難しいかもしれないが、おそらくここにしかないオリジナルのデータであるため、振り返ってまとめてみた意味はあるのではないかと思う。
特に大島については5試合分のデータがあったことから、ある程度の特徴や傾向は表れていたと言えるのではないだろうか。
また、パスのデータを扱うときの解釈の仕方の一つの例として、一度まとめてみた意味はあるのではないかと思う。
来季以降(もしくは代表戦で)、この選手たちのプレーを見るときの一つの基準として、うまくいっているのか、いつもと特徴は同じ傾向なのか違う傾向なのか、などを考えるうえでの参考にするとよいかもしれない。
今後もこの選手たちの分析対象試合を増やしたり、もしくは他の選手(Jリーグに限らず欧州も含め)を分析してみて比較することで、より深い考察ができるようになるのではないかと思う。
その他のパス分析記事はこちら
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