GK(ゴールキーパー)のスタッツ解説
xGを筆頭に、最近少しずつ一般的になってきているサッカーにおけるスタッツの活用だが、まだまだ知られていないものも多くある。
今回は、その中でもGKの活躍を測るための指標を紹介したいと思う。主にFBref経由でStatsBombが提供しているスタッツがメインだが、少し補足説明の必要があるものは、他のスタッツサイトで登場するものにも触れている。
セービング関連
Post-shot xG-Goals Allowed(PsxG-GA) ※失点期待値ー実失点
もともとはセービング数やセーブ率(セーブしたシュート/被枠内シュート)などといった数字が用いられてきたGKのセービング力を示す指標ですが、最近時折用いられているのがこちらの「PsxG-GA」だ。
Post-shot xG(シュート後得点期待値)とは?
「PsxG-GA」の説明の前に、まずpost-shotというのはシュート後という意味で、post-shot xG(PsxG)というのはシュート後の得点期待値という意味だ。したがって、GK目線で見ると失点期待値ということになる。
通常のxGが基本的にはシュートが放たれた位置、またはスタッツ会社によっては相手DFの位置などを考慮して算出される一方で、こちらのPsxGはシュート後、なのでシュートの質を考慮して算出されている。
例えば長距離からのシュートは基本的に得点になる可能性はほとんどないので、xGは非常に低く0.02程度になる傾向があるが、それらが全てGKにとってセーブするのが簡単かというと、そうではない。
ロングシュートの名手が弾丸シュートを枠内に放つことに成功した場合、それはGKにとってもかなりセーブが難しいシュートとなるはずだ。
GKのセービング力を測るために重要なのはxGで表される“チャンスの質”ではなくて“シュートの質”であり、PsxGはこれを考慮したxGということだ。当然ながらロングシュートとは逆のケースで、本来大チャンスであるPKのような場合でも、シュートが枠外に飛べば失点の可能性はないため、xGは非常に高いがPsxGは0になることもある。
PsxG-GAはPsxGから失点数を引いたもの
PsxGは“これだけのクオリティのシュートが枠内に飛んでくれば平均的なGKなら大体これくらいは失点するものだ”というのを示した値なので、このPsxGから実際の失点数を引いたものである「PsxG-GA」によって、GKのセービング力を測ることができる。
簡単に言えば、実際の失点が失点期待値より少ない(すなわちPsxG-GAが大きい)のであれば、そのGKはビッグセーブを多く見せている可能性が高いし、逆に実際の失点が失点期待値より多い(すなわちPsxG-GAが小さい)のであれば、比較的簡単なシュートからも失点しているということになる。
5大リーグのPsxG-GAの値がトップのGKたち
例として、記事執筆時点で欧州5大リーグでこの値が最も高い選手たちを紹介しよう。(2021年4月時点)
プレミアリーグ: エミリアーノ・マルティネス(0.30)
ラリーガ: ヤン・オブラク(0.17)
ブンデスリーガ: コーエン・カステールス(0.16)
セリエA: ウカシュ・スコルプスキ (0.15)
リーグアン: ケイラー・ナバス(0.17)
どのリーグでも一流のGK達は皆一試合当たり0.15~0.2点分セービングで救っている計算になるが、アストンヴィラのエミリアーノ・マルティネスの数字の高さが際立つ。
飛び出し関連
Defensive Actions Outside Penalty Area(ペナルティエリア外での守備アクション)
英語ではよくSweeper Goalkeeper/Goalkeeping(スイーパーGK)という表現もされるが、どれだけ頻繁に飛び出しを行うかを測る指標がこのペナルティエリア外での守備アクションだ。
タックル・インターセプト・ヘディングでのクリアなどどのようなプレイかに関わらず、GKがエリア外でボールをカットした回数だ。スタッツ上は、セービングではないプレイでも、エリア内での飛び出しはこちらにカウントされないので注意が必要だ。
AvgDist(平均距離)
また、FBref上では飛び出しの回数だけではなく、GKが守備アクションを行った平均距離(ヤード数)も観ることができる。こちらは数字的にペナルティエリア内での守備アクションも含まれているはずだ。
プレミアリーグでいうと、現時点で90分当たりのエリア外の守備アクション数のリーグトップはリバプールのアリソン(90分当たり1.4回)で、かつ平均距離も19.2ヤードでトップなので、彼がイングランドで最も飛び出しが多いGKと言っていいだろう。
空中戦関連
Cross Stoppage: クロスストップ
FBref上では、ゴールキーパーの空中戦の能力を測る指標は実は一種類しか掲載されておらず、それがこのクロスストップだ。特に何も難しい点はなく、読んで字のごとく、放り込まれたクロスを弾くにせよキャッチするにせよ、止めることに成功すればクロスストップとなる。
Cross Stoppage %: クロスストップ率
同時に、全クロスに対してどれくらいの割合でGKがストップに成功しているかを示すクロスストップ率という指標もある。ただし、GKが飛び出していけるクロスの数というのはそこまで多くないので、クロスストップが得意なGKでも成功率は10%程度となる。
プレミアリーグでいうとバーンリーのニック・ポープがクロスストップ数・成功率両方でリーグトップ(それぞれ35と12.5)なのだが、一方ウーゴ・ロリスはクロスストップ数15、リーグで13位と極端に低いわけではないが、クロストップ率は4.8%とリーグで最も低い数字なので、基本的にはかなり自信がある時しかクロスをクリアにいかない慎重派であるという事が見て取れる。
(High) ClaimとPunch
ちなみにだが、Optaが提供しているプレミアリーグ公式サイトで掲載されているGKのスタッツはクロスストップがより細分化されており、ボールをキャッチングした場合に使われる(High) Claimとボールを弾いた際に使われるPunchの2種類に分かれている。
パス関連
パスに関するスタッツに関しては、基本的にはフィールドプレイヤーに準ずるのだが、GK独自の指標が2つあるので、それらを紹介しよう。
Throw: スロー
そこまで必要はないと思うが、フィールドプレイヤーとは異なりGKはボールを投げることが許されているので、このスローという種類のパスが存在している。
これは結構各GKごとの個性が出るのが面白く、今季ここまでのプレミアリーグでは、リーズのメリエは2位レノの140に圧倒的な差を付けて225回というとんでもない回数のスローを記録している。平均的なGKの2倍以上スローでボールを出している計算だ。
Launch: ローンチ/ロングキック
Launchは直訳すると発射、という意味なのだが、何故かGKのロングキックのことをローンチとFBref上では表記している。距離の基準は40ヤード(約36.5m)なので、これ以上の長さのパスはローンチということになる。
これは、オープンプレイからのパスも、ゴールキックのパスも同様だ。これもチームカラーがはっきり表れるタイプのスタッツで、ゴールキーパーの全てのパスのうち何パーセントがローンチ/ロングキックだったか、というスタッツも同時に掲載されているのだが、普通にボールを持った際に最もその割合が低いのはリバプールのアリソンとアーセナルのレノ(21.5%)なのだが、一方でゴールキック時に限るとアリソンは30%程度とそこまで変わらないにもかかわらず、レノのローンチ率は60%超えとかなり高くなる、という違いなどがあるのは興味深い所だ。
ちなみに、シェフィールド・Uのラムズデールはゴールキック時のローンチ率93%と驚異の潔さを誇っている。
これらのスタッツを参考に、データによるゴールキーパーの評価にも注目してみてほしい。
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